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COLUMN

外国人美容師の就労可能をどう捉えるべきか

 2020年3月18日の時事通信社が報じたニュースによると、政府の国家戦略特区諮問会議は、日本で美容師免許を取得した外国人留学生が特区で就労できるようにするという方針を決めたそうだ(時事通信ドットコムニュース「外国人美容師の就労可能に 訪日客対応など期待」)。国家戦略特区と言えば、森友、加計学園の疑惑があっただけに、詳細が明らかにされていない中で慎重に受け止めざるを得ないが、基本的には歓迎したいニュースである。

 

 日本の美容室で美容師として就業するには、国家試験に合格し、美容師免許を有していることが条件となるが、これまでその門戸は外国人には閉ざされていた。日本国内において外国人が日本の美容学校に通い、美容師免許を取得することが可能となっているにも関わらず、就労するには労働ビザが下りない(日本人との結婚など例外もある)という状況であった。そのため、日本の美容学校で学ぶ外国人の多くは、日本の美容室で修業することが叶わず、美容師免許取得後、それぞれ帰国の途についたそうだ。ちなみに、ここで定義する外国人とは予想するに大半がアジアの人々であろう。今回、国家戦略特区諮問会議が特区に限りではあるが、外国人留学生の就労を認める方針を出した事は、遅きに失した感は否めないが、観光や教育、現場の競争など様々な分野において、画期的なことと評価できる。もちろん、日本人美容師の雇用が脅かされるということを懸念する人々もいるだろうが、グローバル化していく経済社会の中で、需要と超克が試されている時である。

 

 経済的な面で言えば、今後、中国を筆頭とし、急速に豊かさを拡大させていくであろうアジアの国々は、かつての日本が欧米の文化や教育に憧れたように、美容を通じた文化的な欲求を高めたいという願望を増長させていくことが予想される。あらゆる産業において競争力を落としている日本であるが、かろうじて美容の分野では日本がそのノウハウを活かし、観光や教育の受け皿となりうる可能性を秘めていると私は思っている。

 

 その場合に、職業の性質上、どうしても言語の壁は高いと思われるが、美容師免許を取得した外国人の就労が可能となれば、直接的にも間接的にも言語の問題の大部分が解消されることとなるだろう。求人担当として多くの美容学校を訪れている私が目にする外国人美容学生の多くは、日本語検定も合格し、読み書き能力は日本人学生と比べても劣るどころか優れているといった印象である。なにより留学生だけに学ぶ意欲に満ちている。このような学生を現場で受け入れることができないのは歯がゆいだけではなく、多くの経済的な機会損失であると思われていた。楽観論かもしれないが、これらの問題の多くは解消へ向かうことが予想される。

 

 そしてなにより、私が最も期待したいと思うことは、民間交流を通じた当該国同士の相互理解が深まることである。日本とアジアにおいては、近代において目を覆いたくなるような凄惨な歴史があった。ゆえに、政治においては様々な軋轢が生じてしまうが、民間レベルにおいては相互のコミュニケーションを深めていくことによって、相互理解が深まっていくということが期待できる。それは、ちょうど韓国の例をイメージするとわかり易い。時の政権の政策次第で、政治の面では対立姿勢をとる両国ではあるが、映画やドラマ、エンターテイメントなどを通じて文化交流は勢いを増し、とりわけ若い世代では両国の関係は深まるばかりである。もし、その動きに美容を通じた交流が加わるのであれは、美容に携わる者として望外の幸せである。

 

 ただ、自戒を込めてこの問題を考えなければならない点もある。それは、外国人の就労許可が安価な労働力としての期待や搾取、観光や教育の草刈り場としてのアジアであってはならないという視点である。大げさかもしれないが、近代の反省に立ち、美容師の外国人就労許可という問題を捉えることができるのか。現代を生きる私たちに課せられたテーマとして、自覚することを忘れてはならない。